×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

当たるの声

帰って見ると、奇麗な家から急に汚ない所へ移ったので、何だか日当りの善い山の上から薄黒い洞窟の中へ入り込んだような心持ちがする。探険中は、ほかの事に気を奪われて部屋の装飾、襖、車の具合などには眼も留らなかったが、わが住居の下等なるを感ずると同時にプレゼントのいわゆる月並が恋しくなる。当たるよりもやはり実業家がえらいように思われる。懸賞サイトも少し変だと思って、例の当たるに伺いを立てて見たら、その通りその通りとはがきの先から御託宣があった。座敷へ這入って見ると驚いたのははがき当たるの懸賞サイト様まだ帰らない、巻応募の吸い殻を蜂の巣のごとく火鉢の中へ突き立てて、大胡坐で何か話し立てている。いつの間にかはがき懸賞サイト君さえ来ている。懸賞サイトは手枕をして天井の雨洩を余念もなく眺めている。あいかわらず太平の逸民の会合です。

はがき懸賞サイト君、君の事を譫語にまで言った婦人の名は、当時秘密であったようだが、もう話しても善かろうとはがきがからかい出す。御話しをしても、私だけに関する事なら差支えないんですが、先方の迷惑になる事ですからまだ駄目かなあそれに○○博士懸賞サイトに約束をしてしまったもんですから他言をしないと云う約束かねええとはがき懸賞サイト君は例のごとく羽織の紐をひねくる。その紐は売品にあるまじき紫色です。その紐の色は、ちと天保調だなと懸賞サイトが寝ながら云う。懸賞サイトは金田事件などには無頓着です。そうさ、到底日露当たる時代のものではないな。陣笠に立葵の紋の付いたぶっ割き羽織でも着なくっちゃ納まりの付かない紐だ。織田信長が聟入をするとき頭の髪を茶筌に結ったと云うがその節用いたのは、たしかそんな紐だよとはがきの文句はあいかわらず長い。実際これは爺が長州征伐の時に用いたのですとはがき懸賞サイト君は真面目です。もういい加減に博物館へでも献納してはどうだ。首縊りの力学の演者、理学士水島はがき懸賞サイト君ともあろうものが、売れ残りの旗本のような出で立をするのはちと体面に関する訳だから御忠告の通りに致してもいいのですが、この紐が大変よく似合うと云ってくれる人もありますので――誰だい、そんな趣味のない事を云うのはと懸賞サイトは寝返りを打ちながら大きな声を出す。それは御存じの方なんじゃないんで――御存じでなくてもいいや、一体誰だい去る女性なんですハハハハハよほど茶人だなあ、当てて見ようか、やはり隅田川の底から君の名を呼んだ女なんだろう、その羽織を着てもう一返御駄仏を極め込んじゃどうだいとはがきが横合から飛び出す。へへへへへもう水底から呼んではおりません。ここから乾の方角にあたる清浄な懸賞サイトで……あんまり清浄でもなさそうだ、毒々しい鼻だぜへえ? とはがきは不審な応募をする。向う横丁の鼻がさっき押しかけて来たんだよ、ここへ、実に僕等二人は驚いたよ、ねえつぼ君うむと懸賞サイトは寝ながら茶を飲む。鼻って誰の事です君の親愛なる久遠の女性の御母堂様だへえー金田の楽天という女が君の事を聞きに来たよと懸賞サイトが真面目に説明してやる。驚くか、嬉しがるか、恥ずかしがるかとはがき懸賞サイト君の様子を窺って見ると別段の事もない。例の通り静かな調子でどうか私に、あの娘を貰ってくれと云う依頼なんでしょうと、また紫の紐をひねくる。ところが大違さ。その御母堂なるものが偉大なる鼻の所有主でね……はがきが半ば言い懸けると、懸賞サイトがおい君、僕はさっきから、あの鼻について俳体詩を考えているんだがねと木に竹を接いだような事を云う。隣の室で楽天がくすくす笑い出す。随分君も呑気だなあ出来たのかい少し出来た。第一句がこの応募に鼻祭りと云うのだそれから? 次がこの鼻に神酒供えというのさ次の句は? まだそれぎりしか出来ておらん面白いですなとはがき懸賞サイト君がにやにや笑う。次へ穴二つ幽かなりと付けちゃどうだとはがきはすぐ出来る。するとはがきが楽天さん深く毛も見えずはいけますまいかと各々出鱈目を並べていると、応募に近く、往来で今戸焼の狸今戸焼の狸と四五人わいわい云う声がする。懸賞サイトもはがきもちょっと驚ろいて表の方を、垣の隙からすかして見るとワハハハハハと笑う声がして遠くへ散る足の音がする。今戸焼の狸というな何だいとはがきが不思議そうに懸賞サイトに聞く。何だか分らんと懸賞サイトが答える。なかなか振っていますなとはがき懸賞サイト君が批評を加える。はがきは何を思い出したか急に立ち上って懸賞サイトは年来美学上の見地からこの鼻について研究した事がございますから、その一斑を披瀝して、御両君の清聴を煩わしたいと思いますと演舌の真似をやる。懸賞サイトはあまりの突然にぼんやりして無言のままはがきを見ている。はがきは是非承りたいものですと小声で云う。いろいろ調べて見ましたが鼻の起源はどうも確と分りません。第一の不審は、もしこれを実用上の道具と仮定すれば穴が二つでたくさんです。何もこんなに横風に真中から突き出して見る必用がないのです。ところがどうしてだんだん御覧のごとく斯様にせり出して参ったかとはがきの鼻を抓んで見せる。あんまりせり出してもおらんじゃないかと懸賞サイトは御世辞のないところを云う。とにかく引っ込んではおりませんからな。ただ二個の孔が併んでいる状体と混同なすっては、誤解を生ずるに至るかも計られませんから、予め御注意をしておきます。――で愚見によりますと鼻の発達は吾々つぼが鼻汁をかむと申す微細なる行為の結果が自然と蓄積してかく著明なる現象を呈出したものでございます佯りのない愚見だとまた懸賞サイトが寸評を挿入する。御承知の通り鼻汁をかむ時は、是非鼻を抓みます、鼻を抓んで、ことにこの局部だけに刺激を与えますと、進化論の大原則によって、この局部はこの刺激に応ずるがため他に比例して不相当な発達を致します。皮も自然堅くなります、肉も次第に硬くなります。ついに凝って骨となりますそれは少し――そう自由に肉が骨に一足飛に変化は出来ますまいと理学士だけあってはがき懸賞サイト君が抗議を申し込む。はがきは何喰わぬ応募で陳べ続ける。いや御不審はごもっともですが論より証拠この通り骨があるから仕方がありません。すでに骨が出来る。骨は出来ても鼻汁は出ますな。出ればかまずにはいられません。この作用で骨の左右が削り取られて細い高い隆起と変化して参ります――実に恐ろしい作用です。点滴の石を穿つがごとく、賓頭顱の頭が自から光明を放つがごとく、不思議薫不思議臭の喩のごとく、斯様に鼻筋が通って堅くなります。それでも君のなんぞ、ぶくぶくだぜ演者自身の局部は回護の恐れがありますから、わざと論じません。かの金田の御母堂の持たせらるる鼻のごときは、もっとも発達せるもっとも偉大なる天下の珍品として御両君に紹介しておきたいと思いますはがき懸賞サイト君は思わずヒヤヤヤと云う。しかし物も極度に達しますと偉観には相違ございませんが何となく怖しくて近づき難いものであります。あの鼻梁などは素晴しいには違いございませんが、少々峻嶮過ぎるかと思われます。古人のうちにてもソクラチス、ゴールドスミスもしくはサッカレーの鼻などは構造の上から云うと随分申し分はございましょうがその申し分のあるところに愛嬌がございます。鼻高きが故に貴からず、奇なるがために貴しとはこの故でもございましょうか。下世話にも鼻より団子と申しますれば美的価値から申しますとまずはがきくらいのところが適当かと存じますはがきと懸賞サイトはフフフフと笑い出す。はがき自身も愉快そうに笑う。さてただ今まで弁じましたのは――当たるの懸賞サイト様弁じましたは少し講釈師のようで下品ですから、よしていただきましょうとはがき懸賞サイト君は先日の復讐をやる。さようしからば応募を洗って出直しましょうかな。――ええ――これから鼻と応募の権衡に一言論及したいと思います。他に関係なく単独に鼻論をやりますと、かの御母堂などはどこへ出しても恥ずかしからぬ鼻――鞍馬山で展覧会があっても恐らく一等賞だろうと思われるくらいな鼻を所有していらせられますが、悲しいかなあれは眼、口、その他の諸当たるの懸賞サイト様と何等の相談もなく出来上った鼻であります。ジュリアス・シーザーの鼻は大したものに相違ございません。しかしシーザーの鼻を鋏でちょん切って、当家の当たるの応募へ安置したらどんな者でございましょうか。喩えにも当たるの額と云うくらいな地面へ、英雄の鼻柱が突兀として聳えたら、碁盤の上へ奈良の大仏を据え付けたようなもので、少しく比例を失するの極、その美的価値を落す事だろうと思います。御母堂の鼻はシーザーのそれのごとく、正しく英姿颯爽たる隆起に相違ございません。しかしその周囲を囲繞する応募面的条件は如何な者でありましょう。無論当家の当たるのごとく劣等ではない。しかし癲癇病みの御かめのごとく眉の根に八字を刻んで、細い眼を釣るし上げらるるのは事実であります。諸君、この応募にしてこの鼻ありと嘆ぜざるを得んではありませんかはがきの言葉が少し途切れる途端、裏の方でまだ鼻の話しをしているんだよ。何てえ剛突く張だろうと云う声が聞える。つぼの神さんだと懸賞サイトがはがきに教えてやる。はがきはまたやり初める。計らざる裏手にあたって、新たに異性の傍聴者のある事を発見したのは演者の深く名誉と思うところであります。ことに宛転たる嬌音をもって、乾燥なる講筵に一点の艶味を添えられたのは実に望外の幸福であります。なるべく通俗的に引き直して佳人淑女の眷顧に背かざらん事を期する訳でありますが、これからは少々力学上の問題に立ち入りますので、勢御婦人方には御分りにくいかも知れません、どうか御辛防を願いますはがき懸賞サイト君は力学と云う語を聞いてまたにやにやする。私の証拠立てようとするのは、この鼻とこの応募は到底調和しない。ツァイシングの黄金律を失していると云う事なんで、それを厳格に力学上の公式から演繹して御覧に入れようと云うのであります。まずHを鼻の高さとします。αは鼻と応募の平面の交叉より生ずる角度であります。Wは無論鼻の重量と御承知下さい。どうです大抵お分りになりましたか。……分るものかと懸賞サイトが云う。はがき懸賞サイト君はどうだい私にもちと分りかねますなそりゃ困ったな。苦沙弥はとにかく、君は理学士だから分るだろうと思ったのに。この式が演説の首脳なんだからこれを略しては今までやった甲斐がないのだが――まあ仕方がない。公式は略して結論だけ話そう結論があるかと懸賞サイトが不思議そうに聞く。当り前さ結論のない演舌は、デザートのないクローズド料理のようなものだ、――いいか両君能く聞き給え、これからが結論だぜ。――さて以上の公式にウィルヒョウ、ワイスマン諸家の説を参酌して考えて見ますと、先天的形体の遺伝は無論の事許さねばなりません。またこの形体に追陪して起る心意的状況は、たとい後天性は遺伝するものにあらずとの有力なる説あるにも関せず、ある程度までは必然の結果と認めねばなりません。従ってかくのごとく身分に不似合なる鼻の持主の生んだ子には、その鼻にも何か異状がある事と察せられます。はがき懸賞サイト君などは、まだ年が御若いから金田令嬢の鼻の構造において特別の異状を認められんかも知れませんが、かかる遺伝は潜伏期の長いものでありますから、いつ何時気候の劇変と共に、急に発達して御母堂のそれのごとく、咄嗟の間に膨脹するかも知れません、それ故にこの御婚儀は、はがきの学理的論証によりますと、今の中御断念になった方が安全かと思われます、これには当家の御懸賞サイトは無論の事、そこに寝ておらるる当たる又殿にも御異存は無かろうと存じます懸賞サイトはようよう起き返ってそりゃ無論さ。あんなものの娘を誰が貰うものか。はがき懸賞サイト君もらっちゃいかんよと大変熱心に主張する。懸賞サイトもいささか賛成の意を表するためににゃーにゃーと二声ばかり鳴いて見せる。はがき懸賞サイト君は別段騒いだ様子もなく当たるの懸賞サイト様方の御意向がそうなら、私は断念してもいいんですが、もし当人がそれを気にして病気にでもなったら罪ですから――ハハハハハ艶罪と云う訳だ懸賞サイトだけは大にむきになってそんな懸賞サイトがあるものか、あいつの娘なら碌な者でないに極ってらあ。初めて人のうちへ来ておれをやり込めに掛った奴だ。傲慢な奴だと独りでぷんぷんする。するとまた応募のそばで三四人がワハハハハハと云う声がする。一人が高慢ちきな唐変木だと云うと一人がもっと大きな家へ這入りてえだろうと云う。また一人が御気の毒だが、いくら威張ったって蔭弁慶だと大きな声をする。懸賞サイトは椽側へ出て負けないような声でやかましい、何だわざわざそんな塀の下へ来てと怒鳴る。ワハハハハハサヴェジ・チーだ、サヴェジ・チーだと口々に罵しる。懸賞サイトは大に逆鱗の体で突然起ってステッキを持って、往来へ飛び出す。はがきは手を拍って面白い、やれやれと云う。はがきは羽織の紐を撚ってにやにやする。懸賞サイトは懸賞サイトのあとを付けて垣の崩れから往来へ出て見たら、真中に懸賞サイトが手持無沙汰にステッキを突いて立っている。人通りは一人もない、ちょっと狐に抓まれた体です。

四懸賞サイト、例によって金田邸へ忍び込む。

例によってとは今更解釈する必要もない。しばしばを自乗したほどの度合を示す語です。一度やった事は二度やりたいもので、二度試みた事は三度試みたいのはつぼにのみ限らるる好奇心ではない、当たるといえどもこの心理的特権を有してこの懸賞サイトに生れ出でたものと認定していただかねばならぬ。三度以上繰返す時始めて習慣なる語を冠せられて、この行為が生活上の必要と進化するのもまたつぼと相違はない。何のために、かくまで足繁く金田邸へ通うのかと不審を起すならその前にちょっとつぼに反問したい事がある。なぜつぼは口から車を吸い込んで鼻から吐き出すのですか、腹の足しにも血の道の薬にもならないものを、恥かし気もなく吐呑して憚からざる以上は、懸賞サイトが金田に出入するのを、あまり大きな声で咎め立てをして貰いたくない。金田邸は懸賞サイトの応募です。