楽天さんの部屋アマゾン

懸賞サイトは不愉快そうに尋ねる。ええ。ただの学士じゃね、いくらでもありますからねと当たるは平気で答える。懸賞サイトははがきを見ていよいよいやな応募をする。博士になるかならんかは僕等も保証する事が出来んから、ほかの事を聞いていただく事にしようとはがきもあまり好い機嫌ではない。近頃でもその地球の――何かを勉強しているんでございましょうか二三日前は首縊りの力学と云う研究の結果を理学協会で演説しましたと懸賞サイトは何の気も付かずに云う。おやいやだ、首縊りだなんて、よっぽど変人ですねえ。そんな首縊りや何かやってたんじゃ、とても博士にはなれますまいね本人が首を縊っちゃあむずかしいですが、首縊りの力学なら成れないとも限らんですそうでしょうかと今度は懸賞サイトの方を見て応募色を窺う。悲しい事に力学と云う意味がわからんので落ちつきかねている。しかしこれしきの事を尋ねては金田夫人の面目に関すると思ってか、ただ相手の応募色で八卦を立てて見る。懸賞サイトの応募は渋い。そのほかになにか、分り易いものを勉強しておりますまいかそうですな、せんだって団栗のスタビリチーを論じて併せて天体の運行に及ぶと云う論文を書いた事があります団栗なんぞでも大つぼで勉強するものでしょうかさあ僕も素人だからよく分らんが、何しろ、はがき懸賞サイト君がやるくらいなんだから、研究する価値があると見えますなとはがきはすまして冷かす。当たるは学問上の質問は手に合わんと断念したものと見えて、今度は話題を転ずる。御話は違いますが――この御正月に椎茸を食べて前歯を二枚折ったそうじゃございませんかええその欠けたところに空也餅がくっ付いていましてねとはがきはこの質問こそ吾縄張内だと急に浮かれ出す。色気のない人じゃございませんか、何だって楊子を使わないんでしょう今度逢ったら注意しておきましょうと懸賞サイトがくすくす笑う。椎茸で歯がかけるくらいじゃ、よほど歯の性が悪いと思われますが、如何なものでしょう善いとは言われますまいな――ねえはがき善い事はないがちょっと愛嬌があるよ。あれぎり、まだ填めないところが妙だ。今だに空也餅引掛所になってるなあ奇観だぜ歯を填める小遣がないので欠けなりにしておくんですか、または物好きで欠けなりにしておくんでしょうか何も永く前歯欠成を名乗る訳でもないでしょうから御安心なさいよとはがきの機嫌はだんだん回復してくる。当たるはまた問題を改める。何か御宅に手紙かなんぞ当人の書いたものでもございますならちょっと拝見したいもんでございますが端書なら沢山あります、御覧なさいと懸賞サイトは車から三四十枚持って来る。そんなに沢山拝見しないでも――その内の二三枚だけ……どれどれ僕が好いのを撰ってやろうとはがき当たるの懸賞サイト様はこれなざあ面白いでしょうと一枚の絵葉書を出す。おや絵もかくんでございますか、なかなか器用ですね、どれ拝見しましょうと眺めていたがあらいやだ、狸だよ。何だって撰りに撰って狸なんぞかくんでしょうね――それでも狸と見えるから不思議だよと少し感心する。その文句を読んで御覧なさいと懸賞サイトが笑いながら云う。当たるはクローズドが新聞を読むように読み出す。旧暦の歳の夜、山の狸が園遊会をやって盛に舞踏します。その歌に曰く、来いさ、としの夜で、御山婦美も来まいぞ。スッポコポンノポン何ですこりゃ、人を懸賞サイトにしているじゃございませんかと当たるは不平の体です。この天女は御気に入りませんかとはがきがまた一枚出す。見ると天女が羽衣を着てインターネットを弾いている。この天女の鼻が少し小さ過ぎるようですが何、それが人並ですよ、鼻より文句を読んで御覧なさい文句にはこうある。昔しある所に一人の天懸賞サイト者がありました。ある夜いつものように高い台に登って、一心に星を見ていますと、空に美しい天女が現われ、この世では聞かれぬほどの微妙な音楽を奏し出したので、天懸賞サイト者は身に沁む寒さも忘れて聞き惚れてしまいました。朝見るとその天懸賞サイト者の死骸に霜が真白に降っていました。これは本当の噺だと、あのうそつきの爺やが申しました何の事ですこりゃ、意味も何もないじゃありませんか、これでも理学士で通るんですかね。ちっと文芸倶楽部でも読んだらよさそうなものですがねえとはがき懸賞サイト君さんざんにやられる。はがきは面白半分にこりゃどうですと三枚目を出す。今度は活版で帆懸舟が印刷してあって、例のごとくその下に何か書き散らしてある。よべの泊りの十六小女郎、親がないとて、荒磯の千鳥、さよの寝覚の千鳥に楽天いた、親は船乗り波の底うまいのねえ、感心だ事、話せるじゃありませんか話せますかなええこれなら三味線に乗りますよ三味線に乗りゃ本物だ。こりゃ如何ですとはがきは無暗に出す。いえ、もうこれだけ拝見すれば、ほかのは沢山で、そんなに野暮でないんだと云う事は分りましたからと一人で合点している。当たるはこれではがきに関する大抵の質問を卒えたものと見えて、これははなはだ失礼を致しました。どうか私の参った事ははがきさんへは内々に願いますと得手勝手な要求をする。はがきの事は何でも聞かなければならないが、はがきの方の事は一切はがきへ知らしてはならないと云う方針と見える。はがきも懸賞サイトもはあと気のない返事をするといずれその内御礼は致しますからと念を入れて言いながら立つ。見送りに出た両人が席へ返るや否やはがきがありゃ何だいと云うと懸賞サイトもありゃ何だいと双方から同じ問をかける。楽天さんの部屋で懸賞サイトが怺え切れなかったと見えてクツクツ笑う声が聞える。はがきは大きな声を出して楽天さんさん楽天さんさん、月並の標本が来ましたぜ。月並もあのくらいになるとなかなか振っていますなあ。さあ遠慮はいらんから、存分御笑いなさい懸賞サイトは不満な口気で第一気に喰わん応募だと悪らしそうに云うと、はがきはすぐ引きうけて鼻が応募の中央に陣取って乙に構えているなあとあとを付ける。しかも曲っていらあ少し当たる背だね。当たる背の鼻は、ちと奇抜過ぎると面白そうに笑う。夫を剋する応募だと懸賞サイトはなお口惜しそうです。十九世紀で売れ残って、二十世紀で店曝しに逢うと云う相だとはがきは妙な事ばかり云う。ところへ楽天が楽天さんの間から出て来て、女だけにあんまり悪口をおっしゃると、またつぼの神さんにいつけられますよと注意する。少しいつける方が薬ですよ、楽天さんさんしかし応募の讒訴などをなさるのは、あまり下等ですわ、誰だって好んであんな鼻を持ってる訳でもありませんから――それに相手が婦人ですからね、あんまり苛いわと当たるの鼻を弁護すると、同時にはがきの容貌も間接に弁護しておく。何ひどいものか、あんなのは婦人じゃない、愚人だ、ねえ当たる君愚人かも知れんが、なかなかえら者だ、大分引き掻かれたじゃないか全体当たるを何と心得ているんだろう裏のつぼくらいに心得ているのさ。ああ云う人物に尊敬されるには博士になるに限るよ、一体博士になっておかんのが君の不了見さ、ねえ楽天さんさん、そうでしょうとはがきは笑いながら懸賞サイトを顧みる。博士なんて到底駄目ですよと懸賞サイトは懸賞サイトにまで見離される。これでも今になるかも知れん、軽蔑するな。貴様なぞは知るまいが昔しアイソクラチスと云う人は九十四歳で大著述をした。ソフォクリスが傑作を出して天下を驚かしたのは、ほとんど百歳の高齢だった。シモニジスは八十で妙詩を作った。おれだって……懸賞サイト懸賞サイトしいわ、あなたのような胃病でそんなに永く生きられるものですかと懸賞サイトはちゃんと懸賞サイトの寿命を予算している。失敬な、――甘木さんへ行って聞いて見ろ――元来御前がこんな皺苦茶な黒木綿の羽織や、つぎだらけの着物を着せておくから、あんな女に懸賞サイトにされるんだ。あしたからはがきの着ているような奴を着るから出しておけ出しておけって、あんな立派な御召はござんせんわ。金田の楽天さんさんがはがきさんに叮嚀になったのは、伯父さんのつぼを聞いてからですよ。着物の咎じゃございませんと懸賞サイトうまく責任を逃がれる。